もうひとつのぼんぼり物語

福井県立大学 地域経済研究所 講師 江川誠一氏

私が生を受けこの地に流れを得てから、悠久の時が刻まれてきた。ひとびとは、私が運ぶ清らかな水と豊かな土壌に感謝しつつ、時に荒々しく変貌する姿を怖れ、そして鎮めようと努力を重ねてきた。いつもそばには、懸命に生きる彼らがいた。

なかでも、ここ足羽山の麓、私がゆるやかに蛇行するところは、ひとびとと多くの縁(えにし)を結んできた。瞼を閉じれば、幾千もの物語が思い起こされる。

越前の名石「笏谷石」。継体天皇の世から足羽山で採掘され、我が船着場から三国湊、そして北前船で全国へ。今も各地に眠る淡い青色は、我らの誇りである。

柴田勝家公によって、私に架けられた福井城下唯一の橋「九十九橋」。北国街道の要衝として、多くの物資とともに文化が行き交い伝えられた。北斎の描いた「ゑちぜんふくゐの橋」は、往時の賑わいが忠実に再現されていて実に懐かしい。お市の方やのちの坂本龍馬も、その波乱に満ちた人生の重要な時期に、ここを渡っている。

我が河原に「桃畠」が広がっていたとき、その甘酸っぱい匂いを早春の訪れとともに記憶している。松平春嶽公、由利公正、橋本左内… 幕末を駆け抜けた偉人たちの志を見守り、息遣いを身近に感じていた時期である。

そして明治の末に、我が堤防へ桜が植えられた。その後、戦災・震災からの復興を願うひとびとの手によりそれが復活し、愛され、大切に育てられ、今や「日本一の桜並木」と呼ばれるまでに成長した。老若男女の笑顔と歓声に包まれる花見の時期は、私自身をもワクワクさせる特別な季節だ。とりわけ日が落ちてからのライトアップはまさに日本一、ほろ酔い気分も手伝って、まるで若返ったかのような気分にさせてくれる。

平成16年、轟々とした流れを受け止めきれず、私は大きな怪我をしてしまった。私を信じ寄り添ってくれていたひとびとに、多大な迷惑を掛けてしまった。そんな私を恨むことなく、彼らは私をいたわり、治療を施し、以前よりも強くてしなやかな身体を与えてくれた。

そして平成27年、楽しみにしていた桜の季節に、6年にわたり途絶えていたぼんぼりの灯りが、ひとびとの手により再び燈される。ぼんぼりはそれぞれの物語を、集うひとびとひとりひとりの瞳に、よりいっそう艶やかに、あるいは厳かに焼き付けてくれる。そして、私が観てきた古(いにしえ)の物語を、今に呼び覚ます。

 

たのしみは物識人(ものしりびと)に稀にあひて古(いに)しへ今を語りあふとき(橘曙覧「独楽吟」より)

 

出会いと別れ… 喜びと哀しみ… 祈りと希(のぞ)み。そして、偉人たちの生き様と数奇な運命。

今年はどんな物語が我が川面に映るのだろうか。

 

 

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